手にとったばかりの参政権を、使うより前によごしてしまう今日の古参婦人指導者[#「指導者」に傍点]たちの堕落を、生活のよりどころなさから性的に失墜した無産婦人の悲劇と見較べたとき、人は、いずれを真の堕落と呼ぶであろうか。
三
モラトリアムがはじまった。それが人民の幸福の建設に避けがたい道であるというならば、泥濘も私たち人民は歩き終せるだけの勇気をもっている。
ところが、きょうの新聞に奇怪な投書が掲載された。モラトリアム発表前の十六日、正金銀行で、課長以上の行員たちが殆ど全部現金を五円札に代え、前交易営団総務課長は、二十万円の金を五円札で引き出したという事実である。おそらく、現にその手で事務を取らざるを得なかった同じ銀行の者が、その投書をかいている。
私の財布には、偶然もち合わした、よれよれの五円札が二枚あるぎりである。狐の誑し遊びのように、ちょいと形を代えて細かい札にさえすれば、何十万円という金が、脱税出来るからくりとは知らなかった。インフレーションで悲鳴をあげているのは、実直な勤労生活者であり、モラトリアムで大いにあわてるのは「資本主義のからくり」に精通
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