ら愉快この上ない顔つきで散歩している。一行はドイツ人もアメリカ人も混って、食事の時は婦人党員がドイツ語、英語、ロシア語でやっているのだ。(モスクワを立つ前、こんな事件があった。何処かの工場でアメリカ技師を招聘した。技師は職工を何人かつれて来て、中に黒人労働者もいた。白人職工が何かのことで、議論する間もなくいきなり手を上げて黒人の仲間を殴った。彼は故郷自由の国アメリカ、黒人に対する私刑《リンチ》が行われるときは巡査が交通整理して手伝ってくれる文明国にいるのだと感違いした。その時周囲に目撃していたのはソヴェトのプロレタリアートだ。直ぐその場で一般集会――同僚裁判が開かれた。その白人職工はその工場労働者の決議によってアメリカへ送還された。)

 オムスクから二時間ばかりのところに、すっかり新しい穀物輸送ステーションが出来ている。屋根からつららの下った貨車。そびえるエレバートルの下へ機関車にひかれて行く。何と新鮮なシベリア風景だ。
 午後三時半。
 晴れた西日が野にさして、雪は紫色だ。林は銅色。
 小さい駅。白樺。黄色く塗った木造ステーション。チェホフ的だ。赤い帽子をかぶった駅長が一人ぼっち出
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