新しきシベリアを横切る
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)正餐《アベード》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)私|売店《キオスク》をさがしてるんですが
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)ストロー※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]ヤ
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十月二十五日。(一九三〇年)
いよいよモスクワ出立、出立、出発!
朝郵便局へお百度を踏んだ。あまり度々書留小包の窓口へ、見まがうかたなき日本の顔を差し出すので、黄色いボヤボヤの髪をした女局員が少しおこった声で、
――もうあなたを朝っから二十遍も見るじゃありませんか!
と云った。
――ご免なさい。だが私はこの我らのモスクワに三年いたんですよ。そして、今夜帰るんですよ、日本へ。私はまた明日来るわけにいかないんだし、私のほかにこれを送り出してくれるものはいないんだから、辛棒して下さい。
――そうですか。
女局員はほとんど日に一遍は彼女の前に現れていた丸い小さい日本女の顔を見なおした。
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