――日本へこれが届くでしょうか? みんな。
それは分らない。
広いところへかかっている大きい大きい暦の25という黒い文字や、一分ずつ動く電気時計。床を歩く群集のたてる擦るようなスースーという音。日本女はそれ等をやきつくように心に感覚しつつ郵便局の重い扉をあけたりしめたりした。
Yが帰ってから、アイサツに廻り、荷物のあまりをまとめ、疲れて、つかれて、しまいには早く汽車が出てゆっくり横になるだけが待ち遠しかった。午後六時十五分。
十月二十六日。
三ルーブリ十カペイキ。正餐《アベード》二人前。
ひどくやすくなっている。一九二七年の十二月頃、行きのシベリア鉄道の食堂ではやっぱり三皿の正餐《アベード》(スープ・肉か魚・甘いもの)が一人前二ルーブリ半した。今度は三十カペイキの鉱水ナルザンが一瓶あって、この価だ。おまけに、スープに肉が入っている! 正餐《アベード》をやすくしてみんなが食べられるようにし、夕食《ウージン》は一品ずつの注文で高くしたのはソヴェトらしく合理的だ。
Yはヴャトカへ着いたら名物の煙草いれを買うんだと、がんばっている。
車室は暖い。疲れが出て、日本へ向って走って
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