て来て、郵便車から雪の上へ投げた小包を拾い上げた。その小包には切手が沢山はってあった。
十月二十九日。
昨夜スウェルドロフスキー時間の午前一時頃ノヴォシビリスクへ。モスクワでウラジヴォストクまでの切符を買う時ノヴォシビリスクで途中下車をするようにしようかとまで思ったところだ。新シベリアの生産と文化の中軸だ。真夜中で〇・一五度では何とも仕方ない。車室の窓のブラインドをあげ、毛布にくるまってのぞいていたら次第に近づく市の電燈がチラチラ綺麗に見えた。
一寝いりして目がさめかけたらまだ列車は止っている。隣の車室へ誰か町から訪ねて来て、
――今ここじゃ朝の四時だよ、冗談じゃない!
男の声がした。時計また二時前進。今度の旅行には時間表が買えなかった。大きい経済地図があるのを鞄から出して見る。モスクワは地図の上で赤ボッチ。自分達はシベリアの野と密林の間を一日一日と遠くへ走っている。
ある駅へ止る。ステーションの建物の入口の上に赤いプラカートが張ってある。
五ヵ年計画第三年目完成ノタメニ諸君用意シロ!
その前に男女一かたまりの農民が並んで立って列車とそこから出て来て散歩している旅客を
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