今百余の県に労働兵卒ソヴェトをもっている。
 ――うまく見つけたろ? 波止場まで七ルーブリだって。
 もう明るい。電車はごくたまにしか通らず、人通りの少い、支那人とロシア人が半々に歩いている街を、馬車について行く。右手に、海が見えた。汽船も見える。――
 波止場まで遠い。Y、小走りで先へゆく荷車に追いついたと思うと両手に下げてた鞄と書類入鞄を後から繩をかけた荷物の間へ順々に放りあげ、ひょいと一本後に出てる太い棒へ横のりになった。尻尾の長い満州馬はいろんな形の荷物と皮外套を着たYとをのっけて、石ころ道を行く。自分は歩道を相変らずてくる。てくる。――
 だらだら坂を海岸の方へ下る。倉庫が並んでいる。レールが敷いてある。馬糞がごろた石の間にある。岸壁へ出て、半分倉庫みたいな半分事務所のような商船組合の前で荷馬車がとまった。目の前に、古びた貨物船が繋留されている。それが我等を日本へつれてゆく天草丸だった。
 そこからは、入りくんだ海の面と、そのむこうに細かく建物のつまった出鼻の山の景色が見える。今太陽は海、出鼻の上を暖かく照らし、岸壁でトロを押している支那人夫の背中をもてらしている。
 ウラジ
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