多いな。――……
 列車は修繕のために二時間以上雪の中にとまっていた。
 ほとんど終日、アムール河の上流シグハ川に沿うて走る。雪、深し。灌木地帯で、常磐木は見えない。山がある。民家はシベリアとは違い薄い板屋根だ。どの家も、まわりに牧柵《チャシ》をゆって、牛、馬、豚、山羊などを飼っている。家も低い、牧柵《チャシ》もひくい。そして雪がある。
 川岸を埋めた雪に、兎か何か獣の小さい足跡がズーとついている。川水は凍りかけである。
 風景は、モスクワを出た当座の豊饒な黒土地方、中部シベリアの密林でおおわれた壮厳な森林帯の景色とまるで違い、寂しい極東の辺土の美しさだ。うちつづく山のかなたは、モンゴリア共和国である。

 十一月二日。晴れたり曇ったり。
 列車の窓とすれすれにごろた石の山腹がある。ひる頃外を見ても、やっぱりそれと瓜二つなごろた石の山腹が窓をかすめて行く。
 ――退屈な景色!
 ――ベザイスが、実はあんたのところの同じような山には、もうあきあきしてるんですと云ったわけだ。
 芸術座小舞台で「我等の青春」という国内戦時代のコムソモール(青年共産同盟員)たちの感情、若さから誤謬は犯しながら
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