一つの事実に触れ得るのである。
まともに相剋に立ち入っては一生を賭しても解決はむずかしいのだからと、今日の文化がもっている凹みの一つである女らしさの観念をこちらから把んで、そこで女らしさの取引きを行って処世的にのしてゆくという態度も今日の女の生きる打算のなかには目立っている。それを現実的な女の聰明さというように見る女自身の誤りの上に、その実際はなり立っている。矛盾の多い社会の現象の間では、軽蔑に価する態度が、功利的な価値を現してゆくことも幾多ある。そんなこといったって、あの人はあれで名声も金もえているという場合もあるが、現代の若い女のひとは、人生の評価をそこで終りにしてしまわないだけには人間として成長もして来ているのではないだろうか。私たちの生きている時代は外廓的には随分進んでいるから、女のおくれている面で食っている女というものもどっさり出て来ている。真に女の生活のひろがりのため、高まりのため、世の中に一つの美をももたらそうという念願からでなく、例えば女らしさを喰いものにしてゆく女が、肉体を売る商売ではなく精神を売る商売としてある。
社会のある特殊な時代が今日のような形をとって来る
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