つかると、女のひとはそれを我々の今日生きている社会のおくれた形から蒙っている男女の損失として見るより先に、わが心のうちに旧い呼び声をめざめさせられ、結局女はやっぱり女らしく、と新しい生活形態を創造してゆくための努力はすてる傾きが多い。
 男のひとにしろ、そういう社会的な障害にぶつかった場合、やはりとかく不満や居心地わるさの対照に女をおいて、女らしさという呪文を思い浮べ、女には女らしくして欲しいような気になり、その要求で解決がつけば自分と妻とが今日の文明と称するもののうちに深淵をひらいている非文明の力に金縛りになっているより大きい事実にはあまり目を向けないという結果になっている。
 こういう面での押し合いは実に一朝一夕に、また一面的に解決されないものだから、近代社会は、その間に、たくさんの犠牲を生み出している。女らしさというものの曖昧で執拗な桎梏に圧えられながら生活の必要から職業についていて、女らしさが慎ましさを外側から強いるため恋愛もまともに経験せず、真正の意味での女らしさに花咲く機会を失って一生を過す人々、または、女らしき貞節というものの誤った考えかたで、わが人生もひとの人生も歪めて
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