て生きた。
 彼女の満されなかった若々しい一心さ、理想的な生存を希う、哀切な人としての願望は、皆消極的な悲しみ、煩悶に精力を消耗されて鎮められた。それだのに――さよは、新たな駭きを以て考えた。――彼女の母は、あれほど勇み立って、女性の天国へは保夫が案内でもされるように、華やかに自分等二人を結婚させたではないか!
 さよは、殆ど愚に近い矛盾をそこに認めた。が、猶考えて行くうちに、彼女は、母のいとしさにひしひしと迫られた。母は、自身の一生で実現されなかった更に沢山の夢、人の夢、女の夢を、自分にこそ味わせこの世に持たせようと、結婚もさせ、世に送り出しもしたのではなかろうか。母の母が、明治の始め、長い絹房の垂れた插頭花《かんざし》をかざした自分の娘に希い望んだ通りに。
 宿題は、代々解かれきれず、彼女にまで伝えられた。
 さよは、自分が受けとったままの白紙で、或は半端な数行で、力の足りなさを示したままで、次の娘の代に譲りたくなかった。何とか答を見つけ出し、祖母や母の感傷なしに、
「私はこれをこう解いた。――お前は何と思う? どう解きますか」
と云い得たかった。
 彼女は、自分の一生までが、祖先
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