とまるで別な、遠い処にあるようで苦しいの。それは勿論」
 彼女は、気を入れて聞き始めた保夫に説明した。
「同じような処もあってよ。同じに考えたり思ったりする事もあります。けれども、それは些細なことで、結局お互がどちらでもいいから、無意識に譲り合って行くのでそうなので、大元の処へ行くと、二つがすうっと離れねばならないようなの。お判りになる? 私の云うことが……。例えば、今、私がこんなことを云うまで、貴方一寸もそういう心持は感じていらっしゃらなかったでしょう? 自分が感じないばかりでなく、私が感じていることも、まるでお感じにならなかったでしょう?――それが離れていると私が云うところです」
「ふうむ。……然しそれは、君が僕の気持をよく理解しないからだろう。まだ――」
「そうか知ら。――私は逆のように感じてよ。貴方は、私共が世間で認める通り夫婦で、外から見た条件がちゃんと調っているのだけ知って安心していらっしゃるのじゃあないこと? 自分達の心の問題を放ぽり出して、他人のように外側だけ見て好い気になっているのは嫌よ。――私は根から安心したいのです。貴方と私とが、本当にこここそというところを確り持
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