れた小僧の姿で歩き出したのであった。
私は、こうきめた。「播州平野」をかいた方法で、この複雑でごたついた重荷は運べない。もうひと戻りしよう。「伸子」よりつい一歩先のところから出発しよう。そして、みっともなくても仕方がないから、一歩一歩の発展をふみしめて、「道標」へ進み、快適なテムポであっさりと読みなれた人々にきらわれるかもしれない、ばか念のいれかたで、「道標」のおよそ第三部ぐらいまで進んでゆこう。そして、女主人公の精神が、より社会的に、ほとんど革命的に覚醒され、行動的に成長したとき、作品の構成もテムポも、それにふさわしく飛躍できるだろう。それまで辛抱がつづいたら、この仕事も何かの実験というに値する、と。
このような方法は、一歩か二歩先に、出来上ったものとしてあるように考えられている社会主義リアリズムの方法として、型破りであるし、誰が見ても低い程度からの試みである。けれども、社会主義リアリズムが、真に現実にたえる制作の方法であるならば、ひとりの作家がその実際の条件にしたがって、ごく発端的な一歩から描き出し、永年の過程のうちにより広い歴史の展望とそこに積極の要素となってゆく人間の物語の
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