グラード市民の名誉のためにおくりものをした品々と云えば、中性の剣とか古代の楯の模造品であり、その記念帳にかかれた文字は、「世界の英雄たち」とか「文明の防衛者達」という字である。スタインベックは、「これらはすべて極めてとるに足らない事を祝う時に使われる馬鹿馬鹿しい讚辞である」と云っている。「スターリングラードが六台の土鋤機を欲しているときに、世界は一個のごまかしの賞牌をその胸に飾ったのである」と。
だけれども、スターリングラードの夕暮、彼に忘れがたい感銘を与えた一人の少年の姿――夕方になると共同墓地に葬られた父を必ず訪れる少年の運命にとって、第二次大戦に連合軍が第二戦線をおくらして、ソヴェトに最も負担の多い出血を余儀なくさせたことは、どのように連関しているかについて、スタインベックは、ふれなかった。
シーモノフの「ロシアの問題」について、彼は少からぬ質問者に出会った。そして彼らを説破した方法を、スタインベックは無邪気に語っている。彼は「ロシアの問題」の題材とテーマとを、すっかり逆におきかえて、もしソヴェトにおいてアメリカに対するこういうことがあるとしたら、君たちはどう思うか、と反問す
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