はまだ年が若くって苦労の多いこの人をいたわる様に云う。
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「そうですネエ、聞いていただきましょうか、でも奥さんなんかはあまり御すきじゃあないことなんですもの」
「かまいませんよおっしゃいナ、貴方より一寸は年上なんだしするから年寄らしい御同情も出来るかもしれませんもの」
「エエ有難う、じゃ聞いて下さい。アノーマアこうなんです、私に、自分で何だか変な様ですが五年もの間約束して居た女《ヒト》があったんです。それがおととしでしたっけか私があの病気になって病院に入った間に今までの事を忘れた様に一言の云いわけどころか『どうだ』とも云わずによそに嫁ってしまったんです。それもネエ、そうじゃありませんか奥さん、どうにもならない事情でならだれがどう云うもんですか私はキット自分からすすめてやったに違いないんです、嫁っても幸福だと思ったら――。それだのに自分がはでに金ぴかにその一生を送りたいばっかりに親達のとめるのをきかず忠告をきかずに或る金持のところに行ったんです。嫁に行った嫁かないは別問題として五年もの間、かなり長い時でしょう、その間私が心から信じて居た女が、貴方そんなきたない浅っぽ
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