千世子
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)女《ヒト》
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(例)(一)[#「(一)」は縦中横]
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(一)[#「(一)」は縦中横]
一足門の外に出ればもう田があきるまで見渡たせるほど田舎めいた何の変化もない、極うすい水色の様な空気の山の中に千世子の一家はもう二十年近く住んで居る。子煩悩な父親、理性的な母親は二人ながら道徳の軌道を歩みはずすまいとして神経質になって居るほどで又、それをするほど非常識でも感情的でもない。両親ともに書も歌や詩や文も達者で、父親は彫刻まで上手に若いうちはし、人にも見せられるスケッチさえもって居た。ごく古典的なところと此の上もない新らしさの入りまじった生活を長い間つづけて来た千世子の家庭は人々の思想もとうていはたからは想像さえ出来ないほど複雑なものであった。
感情的な我ままな想像を思いもよらないところにする頭をもった千世子は、その二親と召使共にかこわれて贅沢な思い上った様な暮しをして居る。
八畳の部屋の三方を本箱の城壁を築いてダンテの像を机の上
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