れるのにはきまって居るのにピアノに向ってベートーベンのソナタを弾き出した。
時々出て来る「あのこ」と云う声のきこえる時には規則はずれになるのもなんにもかまわずにペタールをふんだ。乱調子にそむいた心で自分がピアノを弾いて居るのにわけもなくヘッダの最後の舞台面を思い出した。
自分とは何の関係もない事でありながら斯の音に似たなげやりな調子のととのわない音についで起ったあのピストルの音を想って身ぶるいをして手をやめた、何だか悪い事でも起って来る前の様に千世子は重い気持になった。字ばかりならべたてても一日中何となく落つかないイライラした気持に送ってしまった。
寝しなにHは千世子に、
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「一週間ほど立ったら一寸行って来ようと思ってます、葉書――」
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と云ってHはなげつけた様に笑った。
千世子はそれには返事をしずに「フフフ」と笑って立ち入られた様な気持になった。ざっと一月はなれずに居た千世子はHの性質や癖をかなりよく見つけてしまった。しんねり強い神経質な前までの経験の悪い悲しい経験でも善い経験に思いなして居る人、生活にとらわれて居ながら時々まるで
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