通った色で』なんて云う事があるとしましょう、そうするとすぐ『ろくでもない事を云うのは御やめ気違いみたいじゃないか』って云われるんですもの、フックリした気持になって居る時そう云う事を云われると、美くしく化粧した舞台がおのきれいなかぶりものをかぶって居るとんだりはねたりが一寸松やにから竹がはなれるともんどりうってかぶりもののとれた下から白っぱげた役者の素がおが出ると同じ事にネ。自分でどうしようもなくなってしまうんですワ、そうなってしまうと……」
[#ここで字下げ終わり]
 千世子はあきらめた様な口調に云って白い紙の上に線を引く事をやめないHを見て又ペンをにぎった。
 しばらくすると母親が、
[#ここから1字下げ]
「御精が出る事、一寸しゃべりませんかもうじきお茶が出ますよ」
[#ここで字下げ終わり]
と云って入って来た。千世子は一寸ふりかえって笑って居るはぐきの色のわるいのと前髪のしんののぞいて居るのを見てたまらなくきたないものを見せられた様な気になって一寸まゆをひそめて又紙に目を落した。
 うしろの方で新しい女の事を論じて居る母親の声がいやに耳ざわりになってたまらなくって「おやめ」と云わ
前へ 次へ
全192ページ中36ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング