んでもがたしかにそうだと思えます、そして人間の心理状態がこまっかい切子のガラスの様になって行くんです、だから感情は益々鋭敏になる筈で、感じる事書く事が皆色の濃い鋭いつっこんだものになって行くんです。従ってかなり古い時に生れた私達には想像する事の出来ない感情、事柄が文学の上にも現れて来るからあんまりあけっぱなしの様に思われたり刺撃がつよかったりするんでしょう……」
「そうでしょうかねえ、あの何とか云う人の『死の勝利』なんてまるで道徳を無視して居るじゃありませんか、それにサ、恋した女なら夢中で恋して居ればいいじゃありませんか、それだのにあんな自分の女をあっちこっちからのぞいてサ、一人でうれしがったり怒ったり、若い娘のよむはずの第一ものじゃないじゃありませんか」
「あの時もそう云ったんですけどネエ」
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 千世子はいくたび云っても甲斐のない事だと云った様な少しはなにかかった声で云った。
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「文学なんて云うものは道徳の上から見てもどっから見ても欠点のない、どんな人にでも見せてさしつかえのないものならそれはほんとうにととのったものには違いありませんけど
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