ぎって千世子の云う事がはっきりと頭にのこって行った。
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「ネエHさん、貴方この頃の文学をどう御思いになります? 私なんかあんまり放縦なしだらのないもんだと思ってますけど。近世文学なんて私大嫌です。だから此娘《コレ》にもかぶれたりなんかしてはいけないって云って居るんです」
「中々むずかしい事ですネエ」
「斯うなんです。こないだ私がネ、ダヌンチオの『死の勝利』をよんでたんです、かして御らんておかあさんがおっしゃるからかしてあげたら『こんなものがこの頃はもてはやされるのかネエこんな事を書いてさ、だからこの頃の文学はいけすかない、第一かいて居る事からしていや味でサ』って云ってらっしゃったんです、だからそれででしょう?」
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千世子は話があんまり前とつづきのないどう云う事からそんな話が起ったんだかHにわかりそうにもなかったんで説明した。
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「ああそれでなんですか。私になんかよく分りませんけど、生活状態が段々複雑になって行くにつれてすべて行われる日常の事が段々色で云えば濃い色になって行くらしいんです、犯罪と云う事もぜいたくさでもな
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