りませんよ。親と云うものは、自分の子供がうれしがって居れば嬉しがりすぎはしまいかと案じる――あんまり綺麗だと云えば綺麗がりすぎはしないかと案じるんですから。聞くだけでも感謝してきかなくっちゃいけますまい、私なんか親に心配された事なんか夢にも有りゃしない、不幸なんです」
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 Hは千世子の味方をしながら又母親の気もそこねまいとして斯う云った。千世子はその気のわからないほどふぬけでもないから、
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「ええ……エ」
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とあいまいな返事にごまかしてしまったけれ共Hのものなれた言葉つきや割合に自分の気持も解して呉れると云う事がさっきの事と一緒に千世子には大変に気持よくうれしく思う事であった。そして自分でそうと斯う思って居た。
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「私はやっぱり若いんだ。Hがあんな事を云ったって三十位にもなって居ればただいいかげんに何か感じないんだろうけれ共、世間になれた様なふりをしてたってやっぱり世間知らずらしい」
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 千世子は母親のだまって居るのを一人でひきうけた様にいろいろHに質問をした。Hはひくい
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