り]
千世子はだまって焔を見て居たがいきなり、
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「マアきれいじゃありませんか、ほんとうに」
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と叫んだ。
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「何が?」
「焔が、――まあなんてきれいに燃えてるんでしょう、何かまっかな着物を着たものが出て来そうだ」
「貴方、マアこうなんですよ、そんな事を感じて居るのは無駄な事だ、只神経を費すばかりだといくら云ってもやめないんですから、それで又思ってもだまって居ればいいのに、ヒョイと顔を出すんですからほんとにサ」
「そんなに云わずといいじゃありませんか、今日にかぎって。だれでも私みたいに御金の事も着物の事も考えずに居れば斯う云う好い気持になれるんですよ、私の方が妙なんだか世の中の人が妙なんだかわけがわかりゃしない」
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千世子はかんしゃくを起して大きな声で云った。
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「そんな事を云うもんじゃありませんよ、案じていらっしゃるんだから……」
「エエそりゃあ分ってますの、けれども人よりもよけいに嬉しかったりきれいだったりするのに心配はいらない事でしょう……」
「そう云うもんじゃあ
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