節をうなって居るのが聞えて来た。
 千世子の草履の音と京子の日和のいきな響が入りまじっていかにも女が歩くらしい音をたて時々思い出した様に又ははじけた様に笑う声が桜の梢に消えて行った。
 京子のつつましやかな門の前に来た時千世子はいかにもとっつけた様に、ポックリ頭を下げて、
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 左様なら
 今度、暇があったら又ね、
 一人で帰るのがいやだ!
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と云うとすぐ京子が何か云ったのを後にきいて大股にスッスッと歩いた。
 少し行って後を振返った時京子がまだ立って居るのを見て前よりも一層速足に歩き出した。
 広い屋敷町の道の両端にひそんで居る闇がどうっと押しよせて来る様に感じ三間ほどの長さに四尺ほどの高さにつまれて居る「じゃり」は瓦斯の光でひやっこく光って闇におぼれて死んだ人の塚の様に見えて居た。追われる様にして家に帰って机の前に座った時その上に葉書と手紙がのって居るのを見つけた。
 叔母からよこした手紙にはこの次の日曜に御馳走をしてやるから来いと云うだけの用にいろいろのお飾りをつけてくどくどと巻紙半本も書いたかと思うほど長く書いてあった。
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