思うと京子が自分の傍に座って居るのが何とはなしに「やっかい」ものがある様に思えて来た。
わきの時計を見上げて千世子は横目に京子の方を見ながら、
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「ああああ、もう十時半になっちゃった。
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とつぶやく様に云った。
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「ほんとうにねえ。
もう帰ろう、あしたまた八時っから小石川へ行かなけりゃあならないんだもの。
今の仕事が片づくと当分は自由で居られる。
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京子は立ちあがって「おはしょり」をなおしながらこれから家に帰ってねるまでの事を話したりした。
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「どうしたって十二時だもの。
それで六時がなれば起きるんだから寝不足で黄色な顔をして居なけりゃあならないのは無理もない。
「それじゃあ日本人の先祖はよっぽど寝不足ばっかりしつづけたものと見える。
貧亡[#「亡」に「(ママ)」の注記]ひまなしで――
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こんな事を云って笑いながら千世子は京子にかす本を抱えながら送って行くつもりで一緒に門を出た。
外は星夜の深い闇がいっぱいに拡がってどっかで下手な浪花
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