下げ終わり]
千世子はだるい声で云った。
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「何ねー、
今して居る仕事の片が附いたら極く新らしい気持で昔の物語りの絵巻を作って見ようと思って。
気に入ったのが見つからないんだもの。
ほんとうに何がいいかしらん。
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京子はほんとうにたずねあぐんだ様に云った。
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「いいのが見つからなかったら自分で物語りを作ったらいいじゃあ、ありませんか、
何にも昔のでなけりゃあ、いけないって云うわけもないだろうのに。
自分で作ったものは気に入らなくってもあたる人がないから一番いい。
それにねえ、若し自分より前の人が自分より達者に同じ物を描いたのでも見るときっと破《やぶ》くか見えない所にしまうかしなければ安心が出来ない様な事が起こって来るもの。
「だって私にはそう都合よく行かないんだもの。
「仕て出来ない事ってありゃしない。
「そう云えばそれっきりだ。
二人はぽつりぽつりとこんな事を話した。
「あんなにしてわざわざ来てもらっても思いのほかだ」
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いつもの通りの不平が千世子の心に湧いて来た。
そう
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