きっと。
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 二人はこんな事を云いながら窓のそばに腰をかけて青々と海の様にしげった楓の葉やその中に交ってまっかににおって居る何かの葉を見たりした。
 立ちどまって一寸頭をまげて篤は何か聞いて居た。
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「外に居たんだねえ。
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 肇は低い声で云った。
 葉の重なりを通して庭の方から高い声で歌を唄って居る千世子の声が二人の耳に響いた。
 二人は顔を見合わせてうす笑をしてその声を聞く様にした。
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「随分元気なんだねえ。
「天気がいいからだろう。
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 千世子の声はいつもよりつやつやしく力に満ちて白い雲の多い空の高い処へ消えて行く様だった。
 篤は窓からのり出して木の幹の間から彼方《むこう》をすかし見た。
 木蓮の木の下に籐椅子をすえて千世子が居るのを見つけた。
 ゆるく縞の着物の衿をかき合わせて「ひざ」の上に小さい詩集をのっけて上を向いてうたって居た。
 唇がまっかに見えた。
 真白い「あご」につづいてふくらんだ喉のあたりから声が出て居るらしく肩の上に葉の影がゆらめいて居た。
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