世子はあんまりよくなかった。
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「ねえこんな影ぼう子ばっかり大きくうつる黒い部屋の中に居ると変な気持がしますねえ、
私の髪の毛がゾロゾロとぬけて行きそうな――
「私の首をくくる繩を握った大っきなものがひそんで居る様な――
ねえ。
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千世子は迫る様な低い声で云った。
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「ええ。
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燭のゆらめきは二つの大きな入道の影に奇妙な踊りをおどらせて壁にうつして居た。
(五)[#「(五)」は縦中横]
ベルの音に女中は口小言を云いながら出て見ると又例の二人が立って居た。
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「いらっしゃるでしょう」
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篤が笑いながらきいた。
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「はい、
お上り遊ばして。
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肇を先に立てて千世子の書斎に行った。
開けられたままの本の頁があけっぱなした窓からの風にあおられて居るばっかりで千世子はもうさっきっからここに居ないらしい様子になって居た。
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「どこへいったんだろう?
「何、今に来るよ、
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