性やなんかで制えられるもんじゃありません到底。
 大きな波のうねりになって押しよせて行く自分の心が浜の方で微妙な響と形で居る小波の様な両親の心とぶつかって水玉をとばしらせてそれと一緒になった時の気持はほんとうに口なんかじゃあ云えませんねえ。
 嬉しい様な力強い様な勝ほこった様な――
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 千世子はだまって居る肇の顔を見てうす笑いした。
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「貴方にも近々そんな日が来ますよきっと、
 そうしたらほんとうに心からお祝をしましょうねえ。
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 こんな事も云った。
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「なんだか出来そうもない様な気がします。
「不安がらないで居る方がいいんですよ、
 きっと出来ると信じて居なけりゃあいけないんです。
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 肇は千世子に何も教えられたんでもない――何も思いついた事もないのに何とはなし気が軽くなった様に思った。
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「少し気が軽くなったんですよ。
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 うすい唇の間から寒い様な歯をのぞかせて笑った。
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「誰だって人と話して居れば少
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