え笹原さん?
 私が云って見ましょうか。
 家庭《うち》の事なんでしょう、
 それで考えていらっしゃるんでしょう、
 きっとそうですよ。
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 千世子はいかにも確信があると云う様に云った。
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「ええ、そうなんです。
 どうしてわかったんです?
 私はまだ一言だっていいやしません。
「だって私には分ります。
 大抵の人のなやむ事ってすからねえ、一時は――
 私だってそうでしたもの、
 久しい間ね私はいろんな下らない事に迷って居たんです。
 自分で恐ろしかった位ねえ。
「女の人ででもですか?
「そんな事は貴方《あな》た男だから女だからのって事はありゃあしません。
「そんなもんですかねえ。
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 肇はほんとうに沈みきった目附をした。
 そして小机が一つ置かれて居る陰の多い部屋とうす赤い盛花の色を見て居た。
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「おっしゃいな? いやなんですか?
「いいえ、でも何と云い出したらいいんだかわからないんでねえこまってるんです――が、
 私が一番辛い事に思ってる事は両親になつかれないって云う事なんです。
 年を取っ
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