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 もう初めて会った日から一月目の今日までに五六度会った肇はよっぽど話をする様になった。
 話す時にも長い「まつ毛」を見開いて一つ所を見つめて居るのが癖だった。
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「どうしてあの人はあんな亢奮した様な声をいつでも出すんだろう」
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とさえ千世子は思った事があった。
 今夜はなお余計そんな様子が見えた。
 千世子は沈んだ様な声で話した。
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「貴方は重い顔色をしていらっしゃる、
 頭でもどうかしてるんですか。
「いいえ、そうじゃあありません。
 けれ共、頭にこびりついてはなれない事が有ってこまって居るんです、
 見込まれた様に――
「私に云えないんですか。
「別に云えないなんて事はありません。
 ほんとうに下らない事なんだけれ共私は考えさせられて居るんです。
「云ったっていいんならお話しなさいな。
「ええ――
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 肇はだまって庭の方ばかりを見て居た。
 その思いあまった様な目つきやしまった頬を見ると千世子には肇が何を思ってるかが大抵見当がついた。
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「ね
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