ないで居る千世子には、絶えずはかどって行く絵筆の運びと心も身もその筆の先にこめて居る京子の様子を見るのがたった一つの慰めであった。
京子は着物の色も模様もなるたけ千世子の心にかなった様にして居た。
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ねえ、これは貴方の御伽にと思って書くんだから、貴方のおこのみ通りにねえ。
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こんな事を云われるのが嬉しいほど人なつっこい気持になって居た千世子はたびたびいかにもすなおな娘らしい調子で母親の処へ手紙を書いた。
叱かられる京子の眼をぬすんで書くと云う事が一つの興味ある事でもあった。
床についてから七日目の日は朝からまるで夏が来た様にあつかった。
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「まあほんとうにあつい、
こんな『かいまき』をかけてちゃあゆだっちゃう。
『女中』にそう云って赤いうすい『かいまき』を出させて下さいな。
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千世子はこんな事を云いながら髪をとかしなおしたり爪の掃除をしたりした。
そしてしばらくの間京子に髪をおもちゃにさせて居た。
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まあ貴方の髪は何てかるいんだろう、
ほんとうにフワフワ
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