。
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私はまあほんとうに四月と五月の月に呪われて居るんだ。
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青い眼のくぼんだ誰が見ても不愉快な顔つきをした千世子は甘苦い様な臭剥《しゅうぼつ》を飲みながらこんな事を云った。ふだんにまして気むずかしい機嫌を取りそこねて女中が一日中びくびくして居なければならない様なのもその頃だった。
京子は毎日の様に来て呉れた。
京子に云いつけられてだれが来ても女中は、
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頭の工合が悪くいらしっておよってでございますから。
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間が悪そうにことわった。
小さい紙っきれに短かい見舞の文句が書きつけられたのなんかがだんだんたまってごとごとと書きつけたなかにうす青い紙に女の様な字で、
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御案じしてるんです、ほんとうに。
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と書いてあったのが一番千世子の心を引いた、でもだれだかわからなかった。
そのわからないと云う方がその筆の主をかえって美くしいものに想像出来ていいとも千世子は云って居た。
京子は千世子の傍で終日絵を描いて居た。
誰にも会わず何にも読めもし
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