からの様な声でこんな返事をした。
暗い通りを横ぎると見えないポールのさきから青白い火花を散らして電車が一台走って行った。
肇は赤い柱の下に立って篤の手をさぐりながら云った。
[#ここから1字下げ]
「ねえ君、僕達はもう二十年近く親しい友達で居たんだよ、
ねえ君――
二十年近くもさ――
「ああ――二十年近くになるねえ。
「でも僕は一番初めどうした事からこんなに仲よしになったんだか今だに分って居ない。
「そんな事、さがそうとするもんじゃあないよ。
「ああ、ほんとうにさがすもんじゃあない。
[#ここで字下げ終わり]
肇は何かひどく亢奮して低いふるえを帯た声で云った。
すいた電車に乗って二人は一っかたまりになってだまって居た。
肇は、今日始めて会った人の事について考え、
篤は自分のわきにぴったり座って居る肇の事を思い、電車は闇をかきわける様にしてつき進んだ。
丁度二人が電車に乗った頃千世子はふくふくの布団にくるまりながら自分で自分をねかしつける子守唄をうたって居た。
(四)[#「(四)」は縦中横]
夜の眠られない晩が十日もつづいて千世子はとうとう床についてしまった
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