そんな事君一体はっきり云えるもんじゃないよ。
[#ここで字下げ終わり]
改まった口調で肇は云って瓦斯燈を見あげてしかめっつらをした。
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「いやじゃあなかったろう、
今度っきり始めての最後にする気はないだろう。
[#ここで字下げ終わり]
篤は肇の肩を抱える様にして云った。
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「でもね、
あの女《ひと》はほんとうに感情家で我ままで御天気屋なんだよ。
そして――
[#ここで字下げ終わり]
肇は何とも云わずにひろびろと横わって居る淋しい町を見て居た。
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「あの人はね、
だれでも若い者がきらいになれない人だよ。
すてきな顔つきでも姿でもありゃあしないけれど。
それにねあの人は音楽も少しは出来る――
[#ここで字下げ終わり]
篤はまとまりのつかない事をつづけて云った。
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「でも僕はまだそんなに感じを受けて居やしない、
何にしろ初めて会った人だからねえ。
この次行く気んなったらまた一緒に行こうねえ。
[#ここで字下げ終わり]
肇は千世子の額と一風変った髪形を思い出して居た。そして筒の中
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