してる、
 どうして斯うなんだろうかしら。
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 京子が云うのに返事もしないで目を細くして千世子は髪と髪の間に五本の指を入れてかきまわされる何とも云えない好い気味をしみじみと味わって居た。
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「ねえ貴方、女で髪をこんな事されていい気持だなんて云う人はありませんよ、
 大抵さわられたっていやだって云うのに――
 私にした所でいい気持どころじゃあない却って頭痛がしてしまう。
 年のわりに思いきった事がすきなんですねえ、
 四十位の女の様だ!
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 京子は生毛のまだ生えて居る千世子の頸を見ながら云った。
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「四十位?
 そんな事ってあるもんですか、
 私達にわかるもんですかそんな事云ったって。
 十五六から二十になるまで心の中に新らしいものが生れると同じ様に四十位の女《ひと》の心には又新らしい或るものが産れて居るんですよ、
 私達には到底分らないものがねえ。
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 千世子は午後になってから自分でも変だと思うっ位気分がよくなった。
 その日まで着て居た着物をぬいでしっとりと折目のついた
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