でもまあ、自分の仕事に、不平があったり何かするからこそいいんで若しそうででもなかったらそれこそほんとうに可哀そうだ。
悟りきった様な調子に千世子がしずかに云うのを京子は押《おし》つける様に笑って、
そうでしょうさ!
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なんか云った。
千世子が気まぐれに時々水彩画を描く木炭紙を棚から下してそれを四つに切ったのに器用な手つきで炬燵につっぷして居る銀杏返しの女の淋しそうな姿を描いて壁に張りつけて眼ばたきを繁くしながらよっかかる様な声で云った。
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「冬中私の一番沢山する様子だ」
「貴方の冬の姿はそんなに淋しそうなの?
私が若し描くんなら燃えしきる焔の上に座って室《むろ》咲の花に取り巻かれて居るのを描く。
それだけ私と貴方はすべての事に違って居るんだ。
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千世子はこの一月ほど燃《た》かない「すとーぶ」のがらんとした口を見た。
そしてあんまりがらんとしていやだから土を敷いて草花でも植え様かと思って居ると云うと、
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「ええさぞ結構な事《こ》ってしょうよ。
ろくに日もあたらない闇の中にヒョロヒョ
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