かんしゃく」やわだかまった気分が皆《みんな》、飛び出してしまう様に気が軽くなって頭がピョコピョコはずみ出しそうに思われた。
陽気な声で千世子はついこの間書き上げた極く短っかいそいで可哀らしいものを京子に読んできかせたり思い浮ぶ歌を歌の様な調子に唄ったりした。
だまって陽気な顔を見て居た京子はしみじみとした低い声で云った。
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「でも貴方なんか、思う通りの事をして苦労も心配もなしに暮して居るから少し位の不平は我まんしなけりゃあいけない。
此頃の私なんかほんとうにみじめこの上なしって云う様な様子なんだもの。
いくら画を書くのが商売だったってあけても暮れても植物の解剖図ばっかり描いて居るんじゃ何か張合も有りゃあしないんだもの。
こないだ描いて居た美人画は叔父が来て散々けなして行ったから洗ってしまったしするから――
好きで始めた仕事をしながら一寸でも、
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ああ、いやだ。
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と思うと淋しい様な気持がする」
「そりゃあ、誰だって他人のして居る仕事は易《やさ》しくって苦労がなくっていい様に羨しい様な気がするにきまってる。
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