といけませんからねえ。
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云いわけらしく云うと、
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何! かまわないんですよ、いくら御覧なすったって!
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大きな声で千世子は笑った。
時計の蓋をしめながら、
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じゃ、もうあんまりおそいから失敬します。
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と云って立ち上ろうとした二人は間の悪そうに袴の紐にくさりをまきつけてからも立つ機会がなかった。
今までよりも一層はげしいすき間が三人の間に出来た、千世子はそのすき間にすべり落ちて死んで仕舞えるほどの深さが有るに違いないとさえ思った。
瓦斯のポーポーと云う声よりももっと低い様な調子で話しながらしげしげ四方を見廻した。
そうして居るうちに、女中《おんな》部屋のボンボン時計が間の抜けた大女の様な音で十一打った。
二人ははじかれた様に立ちあがって、
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何ぼ何でもあんまりですから。
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と云った。
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「どうもお気の毒さま、さぞ待遠くていらしたんでしょうね。
「何がです?
「時計の鳴ってくれるのが。
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