になって居る様子を思って皮肉な芝居を見せられた様な気持がしましたよ。
誰も笑わなかった。
やがて肇は重々しい目つきをして云った。
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「ポーかゴールキーが書いたらどんなだったでしょう。
「ええほんとにねえ。
若し私達がそれをモデルにした処がいかにも下司な馬鹿馬鹿しい滑稽ほか出されませんからねえ。
そんな事を書くには年も若すぎるし第一あんまり幸福すぎますもの。」
千世子はいかにも研究的な様子をして云った。
「ほんとに私共は苦労しらずですものねえ。
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千世子は間もなく嬉しい様な声で云った。
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「でも貴方なんか生活の苦労を知ったり下らない苦痛をたえなければならない様で育って来たらきっとごく疑い深いいやな人になったでしょうねえ。
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篤はくるくると思い切って肥えた千世子の胸のあたりのゆるやかなふくらみを見ながら云う。
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「ほんとうにうまく行って居るもんですよ。
母はもうそりゃああ冷たいいやな中に育ったんですけど平らかな人の心持をそこねない頭を持ってるんです。
もとより
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