うにした。
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 一寸御免なさい。
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 あわただしく千世子は立ちあがって京子の後をついて入口に行った。
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 またいらっしゃい、
 あしたでもね!
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 京子の衿をなおしてやりながら云った。
 外へ出て一寸空を見て、
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 上りましたよすっかり。
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 京子は透る声で云ったまんまカタカタと敷石を丹念に踏む音がかなり長い間響いて居た。
 書斎に入った時二人は何か低く話して笑って居た。
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 ねえ私今もそう思ったんですよ
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 〔以下、原稿用紙一枚分欠〕
色が眼についた。
 そんなに大きくない眼が神経的な色で云えば青味を帯びて輝いて居るのも見た。
 そして少しうつむき勝にして上眼で人を見て話すくせのあるのをも知った。
 肇は見るともなしに千世子の眼のあたりを見つめて居た。
 篤の方を向いてしきりに何か話した。千世子はチラッと肇の方を見て、
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 墨がついてますか?
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と云って笑っ
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