女中の持って来たチョコレートと紅茶を千世子は立って自分で配りながら、
[#ここから1字下げ]
おきらいじゃあないでしょう?
[#ここで字下げ終わり]
笑いながらクリクリに刈った肇の頭の地の白く見えるのを上から見ながら云った。
「この人はねえ、チョコレートのそこぬけなんですよ。
先にねえ、『海の夫人』だか何だったかの時に喰べたのたべないのって――
そのあげくが喉はいらいらする夜は眠られないって夜中の二時頃わざわざ手紙なんか書いて私の所へよこしたんですよ。」
篤はいつもになくこんな事を云った。
[#ここから1字下げ]
「そんなに云うもんじゃあないよ。
[#ここで字下げ終わり]
少し上っかわのかすれた様な細い丸い声であった。
笑う時少しのぞいた歯は寒くなるほど白い。
そして大変小粒にそろって居た。
京子は「云いたい事も云えないから」と云う様な顔をして、
[#ここから1字下げ]
私ももう帰らなけりゃあ、
本石町の伯父が来て居るんですから。
また上ります、失礼致しました。
[#ここで字下げ終わり]
千世子の何とも云いもしないうちに暗誦する様にスラスラっとのべて出て行きそ
前へ
次へ
全67ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング