にして居る人間はやっぱりその方がすきですよ。
 そして又その方がする仕事につり合った気持だもの。
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 こんな事を云いながら美くしい濃い芸を見せると云って京子は散々に松蔦をほめちぎった。
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 そんなに?
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 千世子は気のない様な調子に聞いて居た。
 つめたい御茶をのみながら二人はだまっててんでんに別々な方を見て居た。
 何とはなしもの足りない気持が千世子の体中にみなぎって居た。
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「一寸居ますか?
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 暗い外から誰かが声をかけた。
 千世子は口の辺にうす笑をうかべて目を上の方に向けて耳をすます様に云った。
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「誰?
「私ですよ。
 千世子は手早く着物の衿をなおした。そして、
「お入んなさい。
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と云いながら京子を見て、
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「かまわない人ですよ、何んにも、
 そうやっていらっしゃいよ。
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と云う。
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「あー今日はね、新らしい人をつれて来たんです、
 会って下さるで
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