んな事も千世子は云った。
二人は心から仲の良い様によっかかり合いながらとりとめもない事をぼそぼそと話した。
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「これから毎日貴方は描く絵を持って来私もしたい事をして一日中一緒に居ようじゃあありませんか、
きっといいでしょうよ。
ね? ほんとうにそうしようじゃあありませんか。
「そうねえ。
「そうしましょうよ。
「私も先にそう思った事もあったけど、
あしたっからほんとうに――
目先が変ってようござんしょうねえ。
だけど私の道具を抱えて来るのは随分大変だ。
[#ここで字下げ終わり]
京子は真面目にそんな事を云った。
二人は芝居の話、此の頃の「流行《はやり》」の話をあれから此れへと話しつづけだ。
京子は市村座の様な芝居がすきだと云って、
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ねえまあ考えて御覧なさい、
丸の内にはない花道がありますよ。
いきななりをした男衆が幕を引いて行く時の気持、提灯のならんだ緋の棧敷に白い顔のお酌も見られますよ。
どんなに芝居特有の気持がみなぎって居るか――貴方なんかにわかるもんですか。
私みたいに珊瑚の粉や瑪瑙のまぼしい様な色をお友達
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