っぽくあけると思わず千世子は声をあげた。
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「まあどうしたって云うんだろう。
「何故? 珍らしいでしょう。
 そうやってパサパサな分髪にして居る貴方のわきに私が座ったらさぞ面白いだろう――
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 京子はこんな事を云った。
 縁を緑色に塗った足駄をはいて蛇の目を手にもって京子は青い瓦斯の下に立って居る。
 紫の様に見える濃い髪は形のいい島田に結ばれて長目な顔にほど良い美くしさをそえて居る。
 お召のあらい縞の着物に縮緬のうすい羽織をようやっと止まって居る様に着て背が高い帯の形をコンモリと浮き出させていつもよりは倍も倍も美くしくすなおらしくすべての様子をととのわせて居た。
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「わざわざこんななりをしたんです。
 お召の着物の様な気持のする雨ですもん。
 それにあのいやな仕事もすんだんでねえ。
「まあ、何んしろお上んなさいよ。
 さっきね、
 あの女と一寸気まずい事があったんですよ。
 それで少しくさくさしてたんだから、
 さあ、お上んなさいってばね。
 上らないの?
 よっぽど立姿でもいいって云われたと見える。
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