切にした。椿の花の下でしきりに羽虫を取りっこして居る二つの白いかたまりを見ながら日あたりのいい南の縁に足を投げ出して千世子は安っぽい――それでも絹の袢衿をやりながら云った。
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お前がねえ、
鳩によくしてお呉れだからあげるんだよ、
だから若しひどくすれば取り返してしまう。
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小娘の様な顔をして人のいい様子をして居る気むらな我ままな若い女主人の様子を女中は嬉しさと馬鹿にした気持が半々になった心で見ながら心の底の底では、今呉れた衿と今千世子の掛けて居るのとをくらべて居た。
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鳩が来たんで御機嫌が取りよくなったって云って居たっけ。
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ちょくちょく来る京子が笑いながらそんな事を云ったのも此の頃であった。
鳩を小屋に入れる頃から小雨が降り出して夜に入ってもやまなかった。
夕飯をすまして歌をうたって居た時京子の声がしきりに、
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「一寸一寸、ここまで来て御覧なさいよ。
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と云って居るのをききつけた。
千世子はつま先でとぶ様にして入口に行って障子を荒
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