千世子の顔を見て居た。
 自然の美くしさを云う時千世子の興奮するのは常の事で奇麗な言葉のつながりを誦す様に云っていろいろの事をはなした。
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「悲しみが喜びと云うものよりも微妙なものだと云うけれ共、自然の中の美くしさはそれと同じです。
 ねえそうじゃあありませんか、
 世の中の人が十[#「十」に「(ママ)」の注記]分の九十九まで自然の美くしさを非難したり馬鹿にしたって私だけはほんとうに二心のない忠臣で居られる。
 私が或る時は守ってやり又或る時は守られる事が出来るまで私と自然の美くしさは近づいて仲よしで居る事が出来る。
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 こんな事も云った。
 篤はのぼせた様な千世子の頬と赤い若々しい唇を見ながら云った。
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「独りで居る時でもそんな美くしさが感じられるんですか、
 話したくなって来るとどうするんですか誰あれも来て居ない時――
「そんな時にはね、
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 急に千世子は大きなヒステリックな声で笑った。
 それからすっかり声を落して上目で見ながら迫る様な調子で云った。
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 そんな時には
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