下げ]
 どうしてです?
 何でもが、そう見えますよ、
 なるがままにって云った様に――
[#ここで字下げ終わり]
 こんな事を云って笑った。
 笑った後急に口をたてなおして千世子は腰掛て肱掛に両肱をのせて顔の両わきを支えながら驚くほど真面目に云った。
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 私は見つけました、
 自分では馬鹿馬鹿しくないと思えるだけの話をね。
 貴方は驚く許りの奇麗さを知っていらっしゃる? 御化粧をした娘でもなく表面に表れて居る色彩でもなく――
「又私にわからない私の知らない事なんでしょう?」
「いいえ、考える事でも思い出さなければならない事でもないんです。
「私の驚くほど奇麗だと思うもの――
 月の光の中の雪とオパアルと日向で見る銀器と。
[#ここで字下げ終わり]
 篤は行きつまった様に千世子の方を見て笑った。
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「ええ、ええ、そうです、
 ほんとうにそんなものの中に生きて居るのはほんとうに奇麗なもんです。
 でもね私はもっと知ってますよ。
 ローソクの輝きで見る髪の毛、
 太陽に向って透し見る小指の先、
 ね? そんなのは貴方知ってらっしゃらない。
 私は
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