様に奇怪なそしてどっかに心安い安らかな思いのこもった響でその余韻には鋭い皮肉がふくまれていかにも官能的な音であった。
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「ねえ、ワイルドの作品の様な――
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音をききすます様な目をして千世子は云った。
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「幾分かはそう思いますけど――
それほどに感じませんよ。
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千世子は篤の答にがっかりした様に首を振って静かに蓋を閉じた。
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「貴方、割合に鈍いんですねえ、
いけないじゃありませんか、そんなじゃあ。
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わざとらしい笑い様をして千世子はとっぴょうしもないそっぽうを見て居た。
千世子は腰掛様ともしないで部屋のあっちこっちと歩きまわった。
茶っぽい帯の傍からうす色の帯上げが少しのぞいて白い足袋に蹴り上げられる絹の裾が陰の多い襞を作るのを篤は静かに見て居た。
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貴方随分|暢気《のんき》らしい方だ。
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千世子は向うの隅から両手を組合わせてズーッと下にのばしてこっちに歩きながら云った。
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