うの真面目な言葉としてそれが響いた。
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「ほんとうですねえ。
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 そう云いながらも千世子は考える様な目つきをして居た。
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「ほんとうにそうだ!」
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 つぶやく様に云った千世子の心の底に重いものが産れて来た。
 よろける様にして行ってピアノのふたをあけた。
 そしてたったままシューベルトの子守唄を弾いた。
 しとやかにゆるい諧調は千世子の心をふんわりと抱えて揺籃の裡に居る様な気持にした。
 篤はしずかに歌をつけた。
 低いゆーらりゆーらりとした歌に千世子は涙をさそわれる様な心に柔さが出て来た。
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 ほんとうに好い曲ですね。
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 千世子は幾度も幾度も、繰返し繰返して「ふた」をしながら後に居る篤に云った。
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 ああ、貴方に不思議な気持のする音をきかせてあげましょう。
[#ここで字下げ終わり]
 した蓋をわざわざ開けて千世子は篤の方を見ながらCD[#「D」に「(ママ)」の注記]の音を一度に出した。
 完全四度の音程のその音は三角派の絵の
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