ますよ、恐ろしい様にねえ。
「いやなもんだ。
 でもそう云う事のあるのは何とない痛ましい事ですねえ。
 頭もなく形もととのわず才もない様に育った女が自立しようとすれば一番雑作ないのは女中ですからねえ、やっぱり」
「そうなんですよ。
 例えば何か悪い事をしましょう、
 頭の足りないせいだと思って同情してそうぎすぎすも云わずに置けばすぐ図にのって来ます、
 あたり前だって云う様な顔をしてね」
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 千世子は一寸話を止めた。
 そしてかなりの間口を開かなかった。
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「どうしたんです?
 気分が悪いんですか。
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 篤は千世子の顔をのぞき込みながらきいた。
 小さい子供のする様に千世子は首を横に振った。
 しばらくしてから静かに落ついた声で云った。
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「何でもないんです。
 けれどもね、今まで、あんまり下らない話をして居たのに気がついてね、
 何だか馬鹿らしくなった」
「してしまった話をどうする事も出来ないじゃあありませんか」
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 篤は大きな声で話しながら笑った。
 千世子にはほんと
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