見ながらきいた。
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「影っ坊師を見て居るんですよ隣りの女中の。
 影っ坊師って何だか妙に思わせ振りなもんですねえ。
「女中の?
 私はねよくそう思いますよ、
 女中ってものは私達と同じ女でありながらまるで特別なものとして神から授かった頭を持ってるってね、面白い研究ですよ、その心理をしらべるのは。
 女の見た女中と云うものはほんとうに妙なものに写ります。
 きっと男の人なんかにはわかりますまいよ」
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 篤は窓から目をはなして考え深い様に一つ処を見て居る千世子の顔を見た。
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「そうですかねえ。
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 篤は云った。
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「私なんか女中に接する場合が少ないせいかそんなに知りません。
 それに又知ろうとした事もありませんからねえ」
「生理的にも精神的にも違います。
 特別な点に気がついてねえ、
 奉公人根性をどうしたって無くさせる事は出来ませんよ、
 長く奉公をすればするほど気持の悪くなる御追従と謙遜と憎らしい図々しさばかり大抵はふえるもんです。
 平気で自分の躰をさいなんで笑う様になり
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